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取材・レポート

毎日の通学が自転車の原点

【Profile】

菊池彩花 (長島彩花)
長野県南佐久郡南相木村生まれ。
女子スピードスケート元選手。富士急行スケート部コーチ
平昌オリンピック 女子団体パシュートで金メダルを獲得
2018年現役引退後、スピードスケートナショナルチームアシスタントコーチ就任
妹の悠希(三女)と萌水(四女)と純礼(五女)もショートトラック日本代表選手として活躍中。


長野県ゆかりのサイクリストをはじめ、自転車に関わる人々にインタビュー。
今回は女子スピードスケート元選手菊池彩花さんの、これまでの自転車ライフを紹介する。


――毎日80kmの通学が自転車の原点

私のロードバイクの原点は、高校の時に通学の手段として使い始めたことですね。その前はマウンテンバイクとか普通のママチャリに乗っていました。自宅のある南相木村から佐久長聖高校までの、40キロ弱の道のりを毎日自転車で通っていました。そのころはビンディングシューズなんて知らないからランニングシューズで、自転車にもこだわりがないから安いロードバイクでした。
行きは下りなんですけど帰りはずっと上りで、往復で3時間半の通学でした。スケート部の練習に加えて、毎日の自転車通学でだいぶ鍛えられましたね。
高校を卒業して富士急スケート部に入って、拠点が富士山の麓なので、トレーニングとして5合目まで自転車で登ったりを月に2~3回。あとはスバルラインを登ったり、西湖や河口湖の周りを長距離乗るトレーニングが多かったですね。

――オランダ人コーチについて自転車の楽しさを実感

じつは自転車のトレーニングが楽しいと思えたのはナショナルチームに入ってオランダ人のコーチについてからなんです。それまではトレーニング=きつい練習でつらいイメージしかなかったんです。
スピードスケートはその夏のフィジカルトレーニングが冬の氷上での成績を決めるといっても過言ではない競技です。つまり自転車でトレーニングが大事なんです。オランダ人コーチが来てから自転車トレーニングの距離は伸びて、週に1回は100キロのライドが必ず入りました。そのなかでもチームが拠点としていた帯広のまっすぐな道を、みんなで景色を見ながら走って楽しむことを教わりました。いろんな風とかを感じながら走れるっていうのはすごく気持ちよかったですね。
長距離の自転車トレーニングというのは疲労こそしますが強度自体は低いんです。その前なら、ちょっと長い距離でも頑張るぞって感じで高強度のトレーニングをしていたんですけど、追い込むとかじゃなくて楽しみながら長い距離を走る乗り方を教わって、考え方が変わりました。

オランダ人コーチになる前は、自転車はどちらかというと夏のトレーニングという形でした。それがナショナルチームに入ってからは、冬になっても自転車を持ち歩いて通年のトレーニングになりました。海外遠征をはじめスケートの大会に行くときにも室内トレーナーと一緒に持っていて、インターバルトレーニングやウォーミングアップで使うぐらい、常に自転車は身近なトレーニングツールでしたね。
冬場になると外で自転車に乗るのが限られますが、オランダ人コーチは太陽を浴びることを重視していて、「気温0度ぐらいでも道が危なくなければ外に行きなさい」って言われていましたね。だから海外での遠征でも自転車が身近にありましたし、ヨーロッパの街並みを見ながら乗ったのはすごく楽しかったですね。

――フィッティングで変わった

自転車もいろんな種類があって、道具とかにこだわり始めたらなおさら面白いですよね。私の自転車ライフで一番変わったのは、ポジションのセッティングですね。
オリンピックの1シーズン前にケガをしてしまったときに、たまたま松本市の相澤病院で合宿をしていたんです。そしたら近くの自転車専門店で、スケートに適したポジションにロードバイクをセッティングしてもらえることを知ってお願いしました。
ロードバイクはポジションが合っていないと、脚の前の大きい筋肉ばかり使ってすぐに疲れてしまうんです。でもちゃんとしたポジションで中心に乗れると、おしりとかハムストリングが使えます。結果効率のいい動きができて長時間持つし、一番正しい姿勢で正しい動きを長くできるんです。これはスケートにもすごく大事なので、自転車のポジションを正しくしたことが氷上にもいい影響を与えましたね。
それまでは自己流で乗りやすいと思ったところに適当に合わせていたんですが、自分の感覚なんて調子によって変わるんですよね。だからずっと違和感を感じながら自転車に乗っていて、本当はポジションが合ってないことに気がつけずに、自分に問題があるとさえ思っていました。そんな経験も生かして、いまでは自分が指導している選手たちの自転車もちゃんとポジションを合わせていますよ。

――ヨーロッパと日本の自転車環境の違い

夏の合宿でオランダのヘーレンフェーンという所に行きました。その時がオランダのバイクルートを走るのが初めてたったんですが、車道や歩道と独立してしっかり整備されているのは驚きでしたね。日本だと自転車はクルマと同じ車道で常に気にしながら走っているのが、オランダだとセパレートされていて自転車の安全が確保されているのがいいところですね。
そんな環境だからできるんでしょうけど、オランダ人たちが狭いバイクルートを並走で2列になって走るのが衝撃でした。私たち日本人選手は自転車自体に乗り慣れていなかったので怖かったですが、彼らは会話をしながら走って長時間のトレーニングを楽しくこなしていました。またトレーニングでは極力止まりたくないですが、オランダの交差点は信号のないラウンドアバウト(環状交差点)が基本なので、止まらずに走れるのも良かったですね。

――長野県を自転車で満喫したい

高校を卒業してから長野県を離れて、現役を引退して戻ってきたので、じつは長野県を自転車で走った経験がそれほど多くないんです。昨年息子を出産したこともあったので、しばらく乗れていませんでしたが、これからは県内を自転車で楽しんで行きたいですね。現役のときはやっぱりトレーニングのために自転車だったので、これからは楽しむために乗りたいです。いま走ってみたいのが、アルプスあずみのセンチュリーライドです。去年、妹が参加してすごく楽しかったと聞いているので、参加するチャンスをうかがっています。もう少し先ですが息子と自転車に乗るのも楽しみですね。

収録:2020年3月
取材:猪俣健一

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