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取材・レポート

パールイズミの原点の場所を目指して仲間とサイクリング

Japan Alps Cyclingプロジェクトでは、長野県のサイクリングルーリズムを盛り上げるべく活動を行ってまいります。 より多くの方に自転車と長野県を知ってもらうために、長野県にゆかりのある自転車関係者にインタビューを行いました。 それぞれの目線で自転車の魅力、そして長野県の魅力をお話いただきましたのでご紹介いたします。 今回は、サイクルウェアブランドの株式会社パールイズミの清水弘裕会長です。

「パールイズミの原点の場所を目指して仲間とサイクリング」

インタビュア 自転車冒険家&自転車旅行研究家 小口良平さん
ゲスト    株式会社パールイズミ       清水弘裕会長
       株式会社パールイズミ 営業部マーケティング課 大西勇喜さん

Japan Alps Cycling プロジェクトの小口良平副代表がパールイズミのウエアと出合ったのは、世界一周自転車旅の最中。長年に渡り旅のサポートを受けてきた縁から、株式会社パールイズミ清水弘裕会長に長野県との繋がりやサイクリング体験を、そしてサイクリングウエアについては同社マーケティング課の大西勇輝さんにお話を伺った。

小口:長野県ではJapan Alps Cycling プロジェクトとして、自転車を使った街づくり、観光誘致の取り組みを行っています。そこで2019年、県内に800kmに渡るサイクリングルートを設定しました。まず、会長と長野県との繋がりについてお聞かせください。

清水:私が生まれたのは東京の両国ですが、戦時中5歳頃までは長野県飯田市に疎開していました。 終戦後も飯田にお祖母さんがいたことから、夏などに兄と一緒に遊びに行くんですよね。夜8時過ぎの夜行で東京を出て、夜中1時くらいに兄貴に叩き落とされて、「辰野、辰野」と駅のアナウンスを聞く。そして飯田線に乗り換えて、朝の5時くらいに最寄りの時又駅に降りるわけです。さらに駅から歩いて30分くらい。本当に山の中に父親の生家があったんです。

小口:そのパールイズミのルーツとも言えるお父様の生家までサイクリングされたと聞きました。

清水:父の生家は飯田市の上川路という所です。そこまでサイクリングしようって話になり、改めて「パールイズミ」の原点を見てきました。
イズミという屋号は「湧き水のように新鮮な商品を生み出したい」ということからつけられたって印象の方が強かったのですが、実際に父の生家に湧き水があって、そこからイズミと名付けたのかなぁと。
思い出してみると、父の生家には湧き水があって、その湧き水は母屋から200mくらいで、お風呂を沸かすのに何十回も往復した記憶があります。
写真の祠の跡が、その湧き水があった所。今は埋まっていましたが、当時は生活用水として使っていました。

小口:元々、お父様が営んでいた繊維問屋ではIZUMIという印で肌着を販売されていたのだとか。その泉だったんでしょうか?

清水:その湧き水がインスピレーションに繋がったそうです。パールイズミになったのは、イズミだと商標登録できなかったので、頭に光り輝くという願いを込めてパール(真珠)を頭につけたんです。 父の生家は、この写真の段差になっているあたりの右の方に家があって、家の前には川が流れていました。下の道に出ると、その間はずっと集落が時又駅まで続いているような田舎です。ここは雪が降らないんですが、山合いの集落だったので陽が落ちるのが早く、朝晩の寒暖差が大きかったのを覚えています。

小口:長野県は南北に細長いので、食文化も地域によってだいぶ違いますが、記憶に残っている美味しいものなどありますか?

清水:父の生家の集落ではみんな蚕を飼っていたんです(伊那は桑園、養蚕、生糸の生産地として有名だった)。そのおカイコさんを素揚げで食べるのがおやつでした。あと、飯田の別府という親戚のところで、鯉の養殖をやっていました。背開きで丸焼きにして食べたりしてました。いけすで1か月泳がせていたので、臭みなどはないです。
そういえば、叔母さんのところは松川という天竜川の支流の近くで、2時間かけて歩いていった思い出があります。

小口:そうなんですね。鯉を食べる文化は、私の生まれた長野県の諏訪地域ではないです。諏訪湖だと、ワカサギであったり、アユだったり。ウナギが名産です。以前、諏訪湖一周のイベントにも清水さんに来ていただきましたね。その諏訪湖の周りに2023年には歩行者、歩行者と自転車、自転車と車の3区間に分かれたサイクリングロードが完成予定です。

清水:ところどころで工事が進んでいましたよね。あのような道路であれば、車も自転車を認識できるし、安全に走れるかなと思いました。私は普段、江戸川サイクリングロード走っているんですが、荒川サイクリングロードよりは安全。ただ、どうしても道は歩行者と共有する区間もあるので、その場合は歩行者が絶対優先です。道路整備だけでなく、もっと基本的なところで、「車は自転車に優しく、自転車は人に優しく」という利用者の意識が広がり、出来るだけ安全な道を作ってもらいたい、というのが願いです。

小口:長野県にその他に期待することはありますか?

清水:東京からだと200kmくらいの距離がありますよね。中央自動車道が渋滞するというイメージがあるので、房総半島でやっているようなサイクルトレインなどができると、自転車の人も比較的楽に楽しめるのではないでしょうか。お酒の好きな人は帰りに一杯飲むこともできます。鉄道会社の駅が大変だとは思いますけれども。

小口:長野県へは北陸新幹線を使ってもらう、あるいは信州まつもと空港もあります。2027年にはリニア中央新幹線が開業予定で、飯田市に長野県駅(仮称)が設置されますので、そこで自転車を持ち込めるようになればいいですよね。それと同時に、現地でレンタサイクルを借りれる施設も充実していきたらと思っています。長野は坂が多いので、Eバイクのレンタルも充実させて、今まで自転車に乗らなかった人たちにも健康的に乗ってもらいたいですね。

清水:Eバイクは私も注目しています。実は現在使用しています。一度Eバイクの魅力を知ると、中々ペダルバイクに戻れませんね。もともと大型バイクにも乗っているので、それぞれの良さを知っています。Eバイクがもたらす業界への可能性に期待しています。
今回、子供の頃の思い出の場所に行ってみて、当時の記憶とは違って、「こんな小さな川で遊んでいたのか」と思いました。大人になってからの認識の範囲は何倍も違うんだ、と。15歳で自転車を始めて、高校生の時にアジア選手権の日本代表になったんです。その当時の監督が1960年ローマオリンピックの日本代表監督の林譲四郎さんで、抽選でイタリア製のジャージをあげるということになって、私が当たったんです。それが綺麗なブルーのジャージで、これと同じようなジャージができないかと、父親に作ってもらったのが自転車ウエアを始めたきっかけでした。

小口:清水会長が実際にサイクルロードレースで使っていたことが、パールイズミのウエア作りに繋がったんですね。

清水:昔はロードレースの下りに入る時、観客が新聞紙を渡すんですよね。下りで体が冷えないようにお腹にそれを入れるんです。上りの時は暑いからいりませんが、下りでは防風性の高いウエアが必要。どうにかできないかと思って試行錯誤しました。暑いから脱ぐのはできるけれど、下りに入ってから着るというのは危険性の問題もあるのでなかなかできない。今では、ウエア素材をレイヤリングすることで、下りでも暖かいですよ。

小口:山がちで寒暖差が大きい長野県でサイクリングする時にも役立ちそうですね。今後、よりさまざまな方に長野県をサイクリング楽しんでもらいたいと考えていますが、何かオススメのウエアはあったりしますか?

大西:パールイズミではこれまで自転車を競技者スポーツとしてやっているアイテムが多かったのですが、もう少し裾野を広げていろんな方に自転車を楽しんでもらいたいと思っています。レディースのアイテムも、体にピタッとしたアイテムに抵抗のある方が多いので、もう少しカジュアルな普段着とサイクルウエアとの中間のモデルも出してきました。レディースのパンツも7部丈のゆったりとしたシルエットで、お尻にはパットが入っています。普段着としても成り立って、そのまま自転車にも乗れるアイテム。お店に立ち寄りやすいので、自転車の旅のウエアとしてもぴったりです。また普通のタイツの上から履くためのショートパンツなども用意しています。

小口:ランニングウエアなどは一般の方にも抵抗ないシルエットですよね。

大西:フリージーというカジュアルラインのシリーズがあるのですが、Tシャツに近い形で身幅もゆったりしていてレーサーのサイクルウエアほどピタッとはしていません。ポロシャツのような雰囲気でメッシュ素材、ポケットもついています。また、シティライド系の7部丈パンツもストレッチ性を持ち、ペダリングも問題ないです。自転車に乗る機能面は保ちつつ、見た目はカジュアルなモデルを最近は作っています。スポーツとしてだけでなく、普段の生活の延長線上で自転車の移動や旅を楽しみたいという今のニーズに合わせています。

小口:先程の話にもありましたが、長野県ですとどうしても上り下りが多かったり、寒暖差があると思うのですが、どのように対策をとると良いのでしょうか?

大西:インナーウエアは気温帯に沿って、0℃対応、5℃対応、10℃対応、15℃対応と細かく分かれています。例えば、昔の新聞紙の代わりになるような前面に防風性の高い生地を配したモデルも揃えています。ウエアを全身揃えることができればベストですが、まずはインナーウエアと、先程ご紹介したパッド付きのパンツなどから揃えてもらえれば最低限の安全性や快適性は確保できると思います。

清水:あとは走り始める時に暖かくしますが、あまり着こみ過ぎると走り始めて10分もすれば暑くなってきます。初めは少し大丈夫かな、というくらいのウエアから走り始めて、走っているうちに暑くなってくるので、その際はジッパーを開けるなどしてコントロールできると認識してもらえればと思います。胸元を開けることで十分体温調整はできます。
末端の冷えなどにはグローブと保温性のあるソックスとシューズカバーでしょうか。インナーグローブをして、途中で暖かくなって汗っぽくなったら外すという使い分けをすればかなり違うと思います。また、フルフィンガーはやだなという時期は、指切りグローブの下にインナーグローブをします。指先を温めることで体温は上がるんです。長野県ですと、東京とは気温がだいぶ違うでしょうから。

小口:細かい体温調整できるようにウエアのレイヤリングを考えたうえで、薄手のものをうまく活用するということですね。最後に、パールイズミ製品を使ってもらい、自転車の楽しさを伝える取り組みなどあれば教えてください。

大西:パールイズミサイクリングコミュニティー(PICC)というライドイベントをやっていまして、その活動が3年目を迎えました。サイクルウエアブランドとしてユーザーさんとの接点があまりなかったというのもあり、原点である楽しい自転車の時間を共に過ごす、というシンプルな目的で行っています。そういう場を提供しているパールイズミを知ってもらい、着るものから紐づいて体験も大切にしているということが伝わるといいなと思います。東京周辺で開催していたものを、2019年から初めて1泊2日のライドトリップで非日常体験を楽しみました。長野県の自然もすごく魅力的なので、第一弾として、蓼科高原エリアでのライドトリップを地元のホテルと企画しています。

小口:ライドトリップという言葉がいいですね。自転車を乗って楽しみたいというのが主軸にあって、旅、その土地の食などに広がっていく。今後のJapan Alps Cyclingプロジェクトの活動ともリンクするところがあると感じました。貴重のお時間頂き、ありがとうございました。今度はぜひ長野県にも走りに来てください!

パールイズミ公式WEBサイト https://www.pearlizumi.co.jp/

2020年3月収録
写真・まとめ:栗山 尚久

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